【物性評価】 SwissADMEを使って物性を予測しよう【in silico創薬】

swissADME

本記事は物性予測ツールであるSwissADMEについて書かれた記事です。こちらの内容が理解できると、望みの化合物の物性を簡単にわかることができるようになります。ぜひ皆さんもトライしてみて下さい!

動作検証済み環境

macOS Ventura(13.2.1)

物性評価とは

薬物化合物の物性評価とADME(吸収、分布、代謝、排泄)は、医薬品開発において重要な要素です。物性評価では、化合物の溶解性、安定性、リポフィリシティ(脂溶性)、分子サイズなどの基本的な化学的特性を調査します。これらの物理化学的特性は、薬物の生体内での挙動、すなわちADMEプロセスに直接影響を及ぼします。吸収は薬物が体内に入る方法を指し、分布は薬物が体内でどのように移動し組織に分配されるかを示します。代謝は薬物が体内でどのように変化し、活性を変えるかを、排泄は薬物が体外にどのように排出されるかを表します。これらの過程は、薬物の有効性、安全性、および投与量を決定する上で不可欠です。

SwissADMEとは

SwissADMEは、これらのADMEプロファイルを予測するためのウェブベースのツールです。SMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)形式で入力された化合物の構造に基づき、物理化学的特性、リポフィリシティ、薬物類似性、水溶性などのパラメーターを迅速に計算します。このツールは、化合物の生物利用性レーダーを使用して、薬物としての適合性を視覚的に評価します。このレーダーは、薬物が「薬物らしい」範囲内にあるかどうかを示し、薬物開発の初期段階でのスクリーニングに役立ちます。SwissADMEによるこれらの予測は、化合物の設計と最適化をガイドし、効率的な薬物開発プロセスに貢献します。

SwissADMEによる物性

それでは早速、SwissADMEを使ってみてましょう。

こちらにアクセスしてください。

以下のような画面にアクセスできると思います。

今回例としてしようする化合物は以前AI創薬の記事で発見したTolnaftateです。

分子ドッキングで新型コロナの原因タンパク質MProに対して、結合場所を予測しているので、

興味ある人はこちらから見てみてください。

左のMarvin JSと書かれている箇所にこの構造をかき、真ん中の矢印でSMILESという化合物を文字で表したものを生成します。

右下のRunを押せば、Tolnaftateの物性が表示されます。

各物性説明

以下のようにTolnaftateの物性が予測されました。

各物性について説明します。

物理学的性質(Physicochemical Properties)

  • 分子量(Molecular weight): これは化合物を構成する全ての原子の質量の合計です。単位はグラム/モル(g/mol)で、通常は生体内での分布や排出の速度に影響を及ぼします。小さい分子は体内をより簡単に移動できます。
  • ヘビーアトムの数(Num. heavy atoms): 水素以外の原子の数です。ヘビーアトムが多いと、通常は分子のサイズが大きくなり、生体内での振る舞いが複雑になる可能性があります。
  • 芳香族ヘビーアトムの数(Num. arom. heavy atoms): 芳香族とは、ベンゼン環構造を持つ化合物の一部です。これらの原子は、通常、分子の化学的安定性に寄与します。
  • Csp3分数(Fraction Csp3): 炭素原子がどれだけ飽和しているか(つまり、他の炭素や水素原子と単結合をいくつ持っているか)を示します。この比率が高いほど、分子はより飽和しているとされ、一般に代謝により安定です。
  • 回転可能な結合の数(Num. rotatable bonds): 分子内の回転自由度がある結合の数です。これが多いほど、分子はより柔軟であり、様々な形に変化してタンパク質に結合しやすくなります。
  • 水素結合供与体と受容体の数(Num. H-bond donors/acceptors): 水素結合は分子間の相互作用に重要で、供与体は水素結合を提供できる原子の数、受容体はそれを受け入れることができる原子の数を意味します。これは分子の水溶性やタンパク質との結合能に影響を与えます。
  • 極性表面積(TPSA): 分子が持つ極性(電荷を持つ)原子の表面積です。これが大きいと、一般に水溶性が高く、生体内での分布が広がりやすいことを意味します。

脂溶性(Lipophilicity)

  • Log P_ow (iLOGP)、Log P_ow (XLOGP3)、Log P_ow (WLOGP)、Log P_ow (MLOGP)、Log P_ow (SILICOS-IT): これらは、化合物が水(極性環境)とオクタノール(非極性環境、脂肪に似ている)の間でどのように分配されるかを示す測定値です。具体的なLog P値は異なる計算モデルに基づいて算出されますが、基本的な概念は同じです。値が高いほど、その化合物は脂溶性が高く、逆に値が低いほど水溶性が高いことを示します。これらの値は、化合物が細胞膜を通過する能力や、体内でどのように分布するかを予測するのに使用されます。括弧の中身はLog P_owを計算するために使用される特定の計算モデルやソフトウェアを指しています。
  • Consensus Log P_ow: この値は、上記の異なるLog P値の平均値または「合意値」です。個々の計算モデルが異なるアプローチを取るため、それぞれが異なる値を提供することがあります。合意Log Pは、これらの異なる値を統合して、より信頼性の高い予測を提供しようとする試みです。画像に示された脂溶性の合意値は、いくつかの異なる計算モデル(iLOGP, XLOGP3, WLOGP, MLOGP, SILICOS-IT)を用いて計算されたLog P(分配係数)の値を平均したものです。これにより、単一のモデルに依存することなく、化合物のリポフィリシティをより正確に評価することができます。

水溶性 (Water Solubility)

  • Log S (ESOL): これは推定された水溶性の対数値です。負の値が大きいほど水に溶けにくいことを意味します。ここでの値は-5.46で、中程度に溶解するとされています。溶解度は1.07e-03 mg/mlです。
  • Log S (Ali) & Log S (SILICOS-IT): これらも水溶性を表す値であり、ここではそれぞれ-6.15と-6.58となっており、どちらも「Poorly soluble(溶解性が悪い)」と評価されています。

薬物動態学 (Pharmacokinetics)

  • GI absorption (胃腸からの吸収): 吸収率が高いとは、経口で摂取した場合に薬物が胃腸から血流によく吸収されることを意味します。
  • BBB permeant (血液脳関門を通過するか): 「Yes」とは、この薬物が血液から脳に移行できることを意味します。これは中枢神経系に作用する薬物にとって重要な特性です。
  • P-gp substrate (P-糖タンパクの基質か): ここで「No」とは、この薬物がP-糖タンパクによって細胞外へ排出されることはないということです。P-糖タンパクは薬物を細胞から排出するポンプのような役割をするため、薬物がこの基質でないことは、体内での滞留が長くなることを意味します。
  • CYP阻害 (CYP1A2, CYP2C19, CYP2C9, CYP2D6, CYP3A4): これらは肝臓の酵素で、薬物の代謝に関与しています。この薬物はCYP1A2, CYP2C19, CYP2C9を阻害するとされていますが、CYP2D6, CYP3A4は阻害しません。阻害するとは、これらの酵素が他の薬物を分解する能力を低下させることを意味し、薬物間相互作用のリスクを高める可能性があります。
  • Log Kp (皮膚透過係数): この値が示すのは、薬物がどれだけ皮膚を通過しやすいかです。負の値は、薬物が皮膚を通過するのが難しいことを意味します。

薬物様性 (Druglikeness)

Druglikenessは、化合物が薬としての特性をどれくらい持っているかを示す指標です。以下はその具体的な項目です:

  • Lipinski’s Rule(リピンスキーの法則): 経口薬として機能する可能性が高い化合物は、特定の物理的特性を持つことが多いとされています。このルールには4つの基準がありますが、これらの基準をすべて満たさない化合物も薬として有効な場合があります。この分子は、logP(脂溶性の尺度)が5を超えるため、リピンスキーの法則に一つ違反しています(logP>4.15)。脂溶性が高すぎると、体内での吸収や分布に問題が生じる可能性があります。
  1. Ghose: 分子量、脂溶性、原子数、屈折率に基づくルールで、化合物が薬として有用かを判断します。これらの基準を満たす化合物は、通常、適切なサイズと脂溶性を有し、体内での適正な分布が期待できます。この分子はGhoseの基準を満たしています。
  2. Veber: 経口薬の生物利用度を予測するために回転可能な結合数と極性表面積を評価します。これらが基準内であれば、化合物は腸からの吸収が良好であるとされます。この分子はVeberの基準を満たしています。
  3. Egan: 水/オクタノール分配係数と極性表面積に基づく経口生物利用度予測モデルです。これにより、化合物が腸からどれくらい吸収されるかを評価します。この分子はEganの基準を満たしています。
  4. Muegge: 薬物としての適性を分子量や脂溶性などの物理化学的性質で評価します。厳しい基準をクリアした化合物は、薬物候補として有望とされます。この分子はlogPが5を超えるため、Mueggeの基準を満たしていません(logP>5)。
  5. Bioavailability Score(生物利用度スコア): 0から1のスケールで、化合物が体内でどれくらい吸収され利用されるかを示すスコアです。0.55は中程度のスコアです。

医薬化学 (Medicinal Chemistry)

医薬化学では、化合物が医薬品としての開発に適しているかを評価します。

  • PAINS (Pan-assay interference compounds): 特定の化学アッセイで偽の結果を引き起こしやすい化合物ですが、この分子はPAINSに対する警告がありません。
  • Brenk: 化合物の中には、毒性や他の問題を引き起こす可能性のある特定の構造を含むものがあります。この分子には、そのような潜在的な問題を指摘する「thiocarbonyl_group」という警告が1つあります。
  • Leadlikeness: 「リード化合物」とは、薬物開発の初期段階で選ばれる有望な化合物のことです。ただし、この分子はlogPが3.5を超えるため、Leadlikenessの基準を満たしていません。
  • Synthetic accessibility(合成アクセシビリティ): 化合物を合成する難易度を数値で示します。1は非常に合成しやすく、10は合成が非常に難しいことを意味します。

またShowBOILED -EGGをクリックすると、以下のような画像が現れます。

この画像は、「BOILED-Egg」と呼ばれる、化合物の生物学的利用可能性を視覚化するためのグラフです。BOILED-Eggは、特に薬物の脳への透過性(BBB、Blood-Brain Barrier)と腸からの吸収(HIA、Human Intestinal Absorption)を示すために用いられます。

  • WLOGP: 分子のリポフィリシティ(脂溶性)を表す値。高いリポフィリシティは、通常、化合物が脂質の多い膜を通過しやすいことを意味します。
  • TPSA (Topological Polar Surface Area): 分子の極性表面積を表し、分子がどれだけ極性を持っているかを示します。低いTPSAは、分子が細胞膜を通過しやすいことを意味することが多いです。

グラフ上の黄色い領域(BBB)は、化合物が血液脳関門を通過して脳に到達する可能性が高い領域を表しています。白い領域は、化合物が血液脳関門を通過しない可能性が高いことを示しています。

赤い点は、TolnaftateのWLOGPとTPSAの値を表しており、その点が黄色い領域内にある場合、その化合物は脳に到達しやすいと予測されます。

右側の「Legends」は、このグラフにおける異なるマーカーを示しています。例えば、青い点はPGPサブストレート(P-Glycoproteinの基質)でプラス、赤い点はマイナスを意味します。P-Glycoproteinは細胞膜の輸送体であり、薬物が細胞内に入るのを阻害することがあります。

このグラフは、化合物がどの程度効果的に体内で吸収され、特に脳への到達可能性があるかを予測する際に非常に有用です。

最後に

いかがでしたでしょうか?Tolnaftateは以前すでに薬になっている化合物集団(化合物ライブラリ)から発見したので、薬としては安全である可能性が高いです。

しかし、SwissADMEで予測すると、DruglikenessやMedicinal Chemistryの評価結果が悪かったり、薬としては微妙な結果を出しています。

それなのに、薬として利用されているのはなぜなのでしょうか???

Tolnaftateが使われている用途は、外用薬(皮膚に塗る薬など)で、抗真菌薬なので、そもそも体内に入らないため、体内に入った際の副作用は無視できるからだと考えられます。

ぜひお好きな化合物の物性をSwissADMEで予測してみてください!

参考文献

Calculation of ADME Properties using SwissADME।। Molecular docking।। Ligand guided drug design

SwissADME a web tool to support pharmacokinetic optimization for drug discovery

SwissADME: a free web tool to evaluate pharmacokinetics, drug-likeness and medicinal chemistry friendliness of small molecules

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