本記事はligand-based screeningについての記事です。ligand-based screeningでは一つの化合物を元に他の治療薬としての可能性を探ることができます。本記事では話題のプベルル酸を例として、腎毒性を抑えつつ、他の病気の薬としての可能性を見出していきます。本記事を読むと、Ligand-based screeningのやり方を習得することができます。
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使用ツール
類縁体発見:SwissSimilarity
目次
Ligand-based screeningとは
リガンドベースのスクリーニング(Ligand-based screening)は、薬剤発見において、既知の活性リガンド(分子)の化学的特性や構造を利用して、毒性予測や類似化合物検索などを行う手法です。
本記事ではまずプベルル酸の腎毒性を予測します。
その後類似性探索を使って、プベルル酸の標的タンパク質の予測とプベルル酸のインフルエンザ薬への可能性を見出していきます。
まずはプベルル酸の腎毒性を予測してみましょう。
プベルル酸の腎毒性予測
以前紹介したOnline Chemical databaseに腎毒性を予測するQSAR(Quantitative Structure-Activity Relationship、定量的構造活性相関)モデルがあったので、
まずそれでプベルル酸の腎毒性を予測してみます。(詳細なやり方はこちらの記事を参照)
モデルの詳細はこちら
腎毒性(Nephrotoxicity)の結果はこちら
67%の精度で腎毒性はないというイマイチの結果になりました。
SwissTargetPredictionによるプベルル酸の標的タンパク質予測
SwissTargetPredictionは、化合物の潜在的なターゲットタンパク質を予測するオンラインツールです。化学構造から、薬剤が作用する可能性のあるタンパク質を特定します。
SwissTargetPredictionを使ってプベルル酸の標的を予測してみます。
プベルル酸を書いて、Predict targets
をクリックします。
結果は以下の通りになりました。
probabilityが低いため、プベルル酸が活性があるかどうかは微妙な結果ですが、carbonic anhydrase(炭酸脱水素酵素)に作用する可能性はありそうです。
carbonic anhydraseは腎臓の尿細管で機能しており、これによりHCO3-の再吸収が行われます。
今回プベルル酸により尿細管間質性腎炎が引き起こされるようです。
したがって、プベルル酸により、carbonic anhydraseの機能が阻害され、尿細管間質性腎炎になったという可能性はありそうです。
carbonic anhydraseはいくつか種類がありますが、尿細管上皮細胞にあるのはcarbonic anhydrase IVとcarbonic anhydrase IIっぽいです。(参考文献:近位尿細管の管腔側ナトリウム依存性酸塩基輸送機構の解明)
carbonic anhydrase IIのknown activities(3D/2D)を押すと、実際に活性のある化合物が出てきます。
出てきたCHEMBL28114でもう一度SwissTargetPredictionを行い、carbonic anhydrase IIを見ると以下のようになっていました。
carbonic anhydrase IIに作用する分子は上のように安息香酸骨格(芳香環とカルボキシル基)があります。
芳香環とカルボキシル基があれば、carbonic anhydrase IIに作用しそうです。
ですので、プベルル酸のカルボキシル基を消す、もしくは他の官能基に変更すれば、carbonic anhydrase IIに作用せず、腎毒性も抑えられるかもしれません。
SwissSimilarityによるプベルル酸のインフルエンザ薬への可能性
SwissSimilarityは、化学構造に基づいた類似性検索ツールです。ユーザーが提供した化合物の構造を元に、大規模な化学物質データベース内で類似する分子を特定します。このツールは、薬剤発見や化学研究で有用で、類似した化合物の探索を通じて、新たな生物活性や化学的性質の発見に寄与します。
SwissSimirarityを使って、プベルル酸の類縁体を発見していきます。
さらに3 - Select compound library and screening method
でLigandExpo
にチェックを入れると、PDBにある低分子化合物ライブラリからのスクリーニングが可能で、タンパク質への結合様式もわかります。
結果は次のようになりました。プベルル酸と似たようなHKDを見つけることができました。
このHKDはインフルエンザウイルスのタンパク質(エンドヌクレアーゼ)に結合しているそうです。(PDB:6E0Q)
構造を見ると以下のような感じ。赤色がHKDです。紫色は金属です。カルボニル基は結合に関与していなさそうなので、プベルル酸のカルポキシル基を他のものに変更して、構造を最適化していけば、インフルエンザの治療薬を開発できるかもしれません。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はin silico創薬手法の一つであるligand-Based screeningでプベルル酸の治療薬への可能性を模索してみました。リガンドベーススクリーニングは毒性や活性の問題に直面した際に再評価を促す手法です。この手法により、毒性を引き起こす構造モチーフを特定し、代替または削除して安全性を向上させることが可能です。しかし、これにより活性が低下することもあり、薬剤としての要件を満たさない化合物が出る可能性があります。そうした化合物に対し、異なる標的への適合性を探索することで、研究費用と労力の無駄を避け、新たな治療薬の開発に貢献できます。皆さんもぜひトライしてみて、化合物の色々な可能性を探索してみてください!
参考文献
SwissDrugDesign a free web based environment for docking, virtual screening, target prediction and
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