フリー画像解析ソフトのImageJには天文学用途にカスタマイズされたAstroImageJがあります。特に天文観測で撮影された画像データの解析に使用できます。本記事ではAstroImageJのインストールから機能の紹介を行います。
通常のImageJについてはこちらの記事を参照してください。
macOS Sequoia(15.5), ImageJ 1.54m1, AstroImageJ 5.5.1.00
AstroImageJとは?
AstroImageJ(AIJ)は、天体画像の処理・解析に特化した無償のソフトウェアです。生命科学・医学分野で広く使われている画像解析ソフト ImageJ を基盤に、天文学向けの機能を追加した派生版です。
AstroImageJの主な用途
AIJが特に力を発揮するのは、次のような研究・観測分野です。
小惑星や彗星の測光: 小惑星の自転に伴う明るさの変化から自転周期を求めたり、彗星の活動度の変化を追跡するなどの解析に利用できます。
系外惑星のトランジット観測: 系外惑星が主星の手前を横切る(トランジット)際の、わずかな減光を捉えて光度曲線(ライトカーブ)を作成します。そこから惑星の存在や半径、公転周期などを推定できます。アマチュアによる発見・追観測にも広く用いられています。
変光星の観測: 周期的または不規則に明るさが変化する変光星の光度変化を記録・解析します。周期や振幅の測定を通じて、恒星の物理的性質の解明に役立ちます。
主な機能
AIJは、観測で得られた生データ(FITS など)から、科学的に有用な光度曲線を得るまでのワークフローを、ほぼ一つの環境で完結できます。
- データ較正(キャリブレーション) ダーク、バイアス、フラットといった必須の前処理を効率的に実行できます。
- 画像の位置合わせ(アライメント/レジストレーション) 長時間観測で得た多数のフレームを、星像の位置を基準に精密にそろえます。
- 開口測光(Aperture Photometry) 対象星と比較星を指定するだけで自動測光を行い、大気や透明度の変動を補正した相対光度(差分等級)を算出します。
- 光度曲線の作成と解析 測光結果をリアルタイムでプロットし、横軸に時刻、縦軸に等級や相対フラックスを設定できます。トランジットモデルのフィッティングなど、解析機能も備えています。
- WCS情報の付与(プレートソルビング) 画像内の星の配置から、天球上の座標(赤経・赤緯)を自動特定し、FITSヘッダにWCS(World Coordinate System)として書き込めます。
AstroImageJの強み
- オールインワン:前処理から測光・解析まで一貫して行えるため、複数ツールを切り替える手間を減らせます。
- 無償で利用可能: 研究者、学生、アマチュア天文家など、誰でも無料で利用できます。
- クロスプラットフォーム:Javaベースのため、Windows/macOS/Linuxで動作します。
- 直感的なGUI:コマンドラインではなく、分かりやすいグラフィカル操作で作業できます。
AstroImageJ(AIJ)のインストール方法
下記のリンクをクリックしてAstroImageJのトップページにアクセスします。 https://www.astro.louisville.edu/software/astroimagej/
下記のトップページが開くので、下にスクロールしていきます。

ページの下の方にある「Download an installation package of AstroImageJ」をクリックします。

次のページに遷移するので、お使いのOSにあったものをクリックしてダウンロードします。
AppleSiliconのMacをお使いの方は末尾がmac-arm_64Bit.dmgファイルをダウンロードするように注意してください。

ダウンロードしたファイルの案内に従ってインストールすれば完了です。
インストール後、下記のアイコンのアプリをクリックしてAstroImageJを起動します。

ImageJとの違い
AstroImageJを起動したら下記のようなウィンドウが立ち上がります。

次のImageJと比較するとツールバーの右に色々なツールが追加されているかと思います。

これらのAIJに追加された機能の中で、特に解析に用いる左の5つのアイコンについて紹介していきます。
Aperture Photometry Tool

ツールバー右側の 「円が1つ」 のアイコン(Aperture Photometry Tool)をクリックします。
Aperture Photometry Settings ウィンドウが開きます。

このウィンドウでは、AIJ の開口測光に関わる “測光アルゴリズムの挙動” を一括設定します。主に次の4カテゴリを扱います。
- アパーチャ形状の定義
- 背景(空)推定の方法
- 測定時の演算オプション
- 誤差計算・品質チェック用パラメータ
ウィンドウ内の冒頭の3つの項目はアパーチャ形状の定義設定に関係します。
- Radius of object aperture:星像のフラックスを積分する円半径 (px)
- Inner / Outer radius of background annulus:星を囲む背景リングの内外半径(px)
設定後、画像ウィンドウに戻ると、マウスカーソルが3本の同心円(青)に変わります。これがアパーチャ(内側の円)と背景リング(外側2本)の大きさを表し、測光と背景推定に使うピクセル範囲が決まります。

Multi-Aperture Measurements

隣の 「円が2つ」 のアイコンをクリックすると、Multi-Aperture Measurements の設定画面が開きます。
この画面では、同一画像または画像スタックに複数のアパーチャを配置し、ターゲット(T1 = Target 1)と比較星(comp stars)の選定・配置・追尾・演算方法を指定します。通常は、ターゲットと同一フレーム内の複数の比較星を同様に測光し、ターゲット/比較星の比(相対フラックス)や差分等級をとることで、大気揺らぎ・透明度変動などの共通成分を相殺します。

1. Aperture Geometry(アパーチャ形状・基本半径)
| 項目 | 意味 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| Aperture Shape | アパーチャ形状(円形/矩形など)。PSF(点像拡散関数)に合わせる | 通常は Circular(円形) を使用 |
| Fixed/Base radius of photometric / inner / outer background annulus | それぞれ:星フラックス積分半径、背景リング内半径/外半径 | 目安:オブジェクト半径 = FWHM の約 1.3–2×、背景リング = 内側 2×FWHM/外側 4×FWHM。可変半径モードでも“基準値”として参照 |
2. Aperture Size Strategy(半径の固定・自動・可変)
| ラジオボタン | 概要 | 使いどころ |
|---|---|---|
| Fixed Apertures as selected above | 全フレームで同じ半径を適用 | シーイング変動が小さく S/N の高いデータ |
| Auto Fixed Apertures from first image T1 radial profile | 1枚目の T1 の累積光量プロファイルから“指定閾値に達する半径”を決め、全フレームで固定 | 開始直後だけピント調整したい場合 |
| Auto Fixed Apertures from multi‑image T1 radial profile | 複数枚の平均プロファイルで同様に半径を決定 | 1枚目が特異なピンボケ/シーイングだったときの保険 |
| Auto Variable Apertures from each image T1 radial profile | 各フレームごとにプロファイル解析して半径を再計算 | フォーカスドリフトやシーイング変化が大きい夜 |
| Auto Variable Apertures from each image T1 FWHM + FWHM factor | 各フレームの FWHM を計測し、半径 = FWHM × 係数 とする | 経験則として 1.3–1.4× が汎用的に良好 |
Normalized flux cutoff threshold 欄は“累積光量が○%に達した地点”を半径とする場合の閾値(0.01 = 1 %)。可変半径モードで FWHM factor を 0 にするとこちらが有効化。
3. Placement Policy(どの画像にどのアパーチャを置くか)
| オプション | 動作 | シーン |
|---|---|---|
| Place all new apertures | すべてのフレームで新規に自動配置 | 完全自動の一括処理 |
| Place first previously used aperture / Place N previously used apertures | 直前実行で使ったアパーチャ座標を再利用 | 同一夜の再処理・設定の使い回し |
| Use RA/Dec to locate aperture positions | WCS 付き画像に対し .radec(RA/Dec 一覧)で自動配置 | AAVSO などから比較星座標を事前リスト化した場合 |
| T1 is moving object | ターゲットのみ追尾して比較星は静止配置 | 移動天体測光(小惑星・彗星) |
| Use single step mode | 各フレームを手動で送りつつワンクリック配置 | 自動追尾が難しい悪条件データ |
4. Auto Comparison Stars(比較星の自動選定)
| 項目 | 概要 | 調整パラメータ |
|---|---|---|
| Auto comparison stars | ターゲット周辺で、輝度が近く重ならない星を自動検出 | Enable log(ログ保存)、Show peaks(候補を画像にオーバーレイ)で検証 |
| Smoothing Filter Radius | 何 px でガウス平滑してピーク同定するか | 広視野・星が疎なら 3–5 px 目安 |
| Auto Thresholds | 下段の Max/Min Peak Value をヒストグラムから自動設定 | 極端に明暗が混在する場合のみ手動調整 |
| Max/Min Peak Value / Brightness % | ピーク強度/総光量で候補をふるい分け | 例:Max Comp Brightness % = 150 → ターゲットの 1.5倍より明るい星を除外 |
| Weight of Distance (slider) | 0 = 距離優先 / 100 = 輝度優先 の重み付け | 小視野で輝度が揃うなら距離を 30–50% 程度 |
| Max. Comp. Stars | 自動採用する比較星の上限数 | 通常 10–15 が実用的 |
5. Centroid & Background Handling(重心合わせ・背景処理)
| チェックボックス | 内容 | 効果 |
|---|---|---|
| Centroid apertures | クリック位置からサブピクセル精度で星中心を再計算 | ガイドずれの吸収に有効 |
| Halt processing on WCS or centroid error | 星検出や WCS 失敗時に処理を停止 | 長時間バッチの安全弁 |
| Remove stars from background | 背景リング内の他星をσクリッピングで除去 | 混雑フィールドでの背景過大見積もりを防止 |
| Assume background is a plane | 背景を一次平面(傾きあり)で近似 | 広視野や月明かり勾配の補正に有効 |
6. Runtime & UI Aids(実行時の補助)
| オプション | 目的 |
|---|---|
| Prompt to enter ref star apparent magnitude | 比較星の視等級を入力して、光度曲線を等級スケールで出力 |
| Update plot while running / Update image display while running | 測定表・ライトカーブをリアルタイム更新 |
| Show help panel during aperture selection | アパーチャ配置中に操作ヒントを表示(初心者向け) |
7. 実行ボタン
- Aperture Settings:アパーチャ半径・誤差設定パネルへ戻るショートカット
- Place Apertures:ダイアログを閉じて画像上で配置ステップへ移行
- Cancel / OK:設定を破棄/確定して測光を開始
Clear Overlay Tool

箒アイコンの Clear Overlay は、画像オーバーレイ上のアパーチャ/ラベル/注釈を一括消去します。測定データ(Measurements table)は消えません。
MultiPlot Tool

4番目のMulti-Plot アイコンをクリックすると、測光結果などを多系列でグラフ化できるウィンドウが開きます。グラフのタイトル、軸ラベル、縮尺、凡例、そしてプロットサイズまで一通り設定できます。
クリックすると下記のMulti-plot MainとMulti-plot Y-dataウィンドウが開き、グラフの設定ができます。
Measurements table が AIJ で開かれているか、読み込まれている必要があります(下の Read Measurements Table 参照)。テーブルがあれば、直近の設定を用いて自動でプロットを生成します。プロット設定はテンプレートとして保存・再利用可能です。


Read MeasurementTable Tool

5番目のアイコンは、保存済みの Measurements.tbl などの測定テーブルを読み込みます。タブ/カンマ/スペース区切りのテーブルに対応し、読み込んだテーブルは Multi-Plot でそのまま利用できます。
CCD Data Processor Tool, Coordinate Converter Tool

6番目のDPアイコン のCCD Data Processor Toolと、その隣のCoordinate Converter Toolは前処理と一括処理のハブです。主な役割は次のとおり。
CCD Data Processor(DP) は、観測画像の前処理(キャリブレーション)から測光・可視化の自動実行までを一括で支援する AstroImageJ の中核モジュールです。バイアス/ダーク/フラットのマスター生成と適用、CCD非線形補正、FITS ヘッダー更新、オンライン plate solve による WCS 付与、そして各フレームの校正完了後に Multi‑Aperture(多重測光)や Multi‑Plot(多曲線プロット)を自動起動する運用までをまとめて扱えます。DP は後処理モード(Polling Interval=0)でも、撮像中に逐次取り込んで処理するリアルタイムモード(Polling Interval を非ゼロ、例:5 s)でも動作します。
Coordinate Converter は、天体名(SIMBAD 連携)や座標・観測所位置の入力で、J2000/B1950 の赤道座標、黄道座標、銀河座標など各種系への変換と、UTC/ローカル時刻/恒星時(LST)/JD/HJD/BJDといった時刻系の相互変換を行うツールです。さらに、月や主要惑星との位相・近接状況の概略や、SKY‑MAPを使った天域画像の参照も可能で、観測計画立案や結果の整合チェックに広く使われます。
最後に
本記事では AstroImageJのインストールから各種設定パラメータを駆け足で紹介しました。
ImageJと同じようにスクリプトによる操作も可能ですので、GUI の直感性とスクリプトの再現性を組み合わせることで、直感的に観測データ解析を行うことができ、解析へのボトルネックが大幅に削減できます。
参考文献
- AstroImageJ 2.4.1 User Guide p.33–35
- AIJ Differential Photometry Tutorial (BAA)(britastro.org)






