本記事では、PySCFを用いた量子化学計算のための分子構造の取得・作成方法を紹介します。SMILESやInChI形式を活用し、効率的に分子構造を生成する手法や、RDKitやAvogadro、PubChemデータベースを使用した実践的な方法を解説します。これにより、PySCFを使った計算をスムーズに始められ、研究や分子設計に役立てることができます。
Google colab, pyscf 2.6.2, py3Dmol, PubChemPy 1.0.4., rdkit 2024.3.5, Avogadro 1.2.0
Gaussianを使った量子化学計算の初心者向け技術書を販売中
しばしば出くわすエラーへの対処法をはじめ
Gaussianと無料ソフトウェア Avogadro を組み合わせた物性解析手法が学べます!
1. 量子化学計算用のソフトウェア: PySCFとは
参考文献[1]から引用
PySCF(Python Simulations of Chemistry Framework)は、Pythonベースのオープンソースの量子化学計算フレームワークです。PySCFは、高度な電子構造計算をシンプルかつ効率的に実行するためのツールを提供し、研究者や学生が量子化学の計算を容易に行えるように設計されています。
PySCFの主な特徴は以下の通りです:
- モジュラー設計:PySCFは、計算の各ステップ(分子の構造定義、基底状態の計算、励起状態の計算など)をモジュールとして提供しており、必要な部分だけを組み合わせて使用することができます。
- 高性能計算:内部に高度なアルゴリズムを使用しており、大規模な計算でも高速に処理を行うことができます。
- 柔軟性: Pythonベースであるため、スクリプトを通じて簡単に操作や拡張が可能です。ユーザーは、計算手法やパラメータをカスタマイズして特定のニーズに合わせることができます。
- 拡張性: オープンソースであるため、研究者や開発者が自分の研究に合わせてPySCFを拡張することが容易です。新しいアルゴリズムや方法論を追加することで、独自の研究を進めることができます。また、拡張機能が開発され続けている事も特徴です。
分子の初期座標生成の重要性
量子化学計算において、正確な初期分子座標を設定することは、計算結果の精度と信頼性を高めるために非常に重要です。初期座標が不適切な場合、エネルギーの最適化や反応経路探索の結果が正確でない可能性があります。したがって、PySCFを用いて分子の電子構造計算を行う前に、信頼性の高い初期分子構造を生成することが不可欠です。
本記事の目的
この記事では、PySCFを用いて量子化学計算を行うための具体的な分子の初期座標を生成方法について解説します。特に、有機物と金属錯体・無機物の分子構造生成に焦点を当て、それぞれに適したツールと手法を紹介します。
- 有機物の分子構造生成: Smails、InChI、分子式等の分子表現からPubChemおよびRDKitを用いて有機分子の構造を生成し、PySCFでエネルギー計算を行う手順を解説します。
- 金属錯体・無機物の分子構造生成: PubChemに掲載されていない金属錯体分子の分子構造をAvogadroを使用して生成し、PySCFでの解析に使用する方法について説明します。また、金属錯体に特有のECP(Effective Core Potential)の使用についても触れます。
2. 基本的な設定と環境構築(Google Colab編)
PySCFを用いた分子構造生成とエネルギー計算を行うためには、いくつかのPythonライブラリをGoogle Colab上でインストールして設定する必要があります。この章では、Google Colabで必要なライブラリのインストール方法について説明します。
2.1 Google Colabの準備
- Google Colabにアクセス: Googleアカウントを持っていれば、Google Colabにアクセスして、新しいノートブックを作成することができます。
- 新しいノートブックを作成: Google Colabのトップページで「New Notebook」をクリックして新しいノートブックを作成します。
2.2 必要なライブラリのインストール
Google Colabでは、必要なライブラリを簡単にインストールできます。以下のコマンドをノートブックのセルに入力して実行してください。
- PySCFのインストール: PySCFは分子の電子構造計算を行うための主要なライブラリです。以下のコマンドでインストールします。
!pip install pyscf
- RDKitのインストール: RDKitは化学情報学に特化したPythonライブラリで、SMILES形式からの分子構造生成や操作に使用されます。以下のコマンドでインストールします。
!pip install rdkit
- PubChemPyのインストール: PubChemPyは、PubChemデータベースから化学情報を取得するためのライブラリです。以下のコマンドでインストールします。
!pip install pubchempy
- 可視化ツールのインストール: Google Colabでは分子構造を視覚化するためのツールとして、
py3Dmol
を使用することができます。以下のコマンドでインストールします[4]。!pip install py3Dmol
3. 有機物の分子構造生成
3.1 PubChemを使用した分子構造の取得
PubChemとは何か
PubChemは、米国国立衛生研究所(NIH)が提供する無料の化学物質データベースです[5]。化合物、化学物質、化学反応に関する詳細な情報を提供しており、分子構造や物理化学的特性、バイオアクティビティ情報などが含まれています。特に有機分子の研究において、分子のSMILES形式や3D構造を簡単に取得できるため、非常に便利です。
PubChemからカフェインのSMILES形式を取得する手順
1. PubChemウェブサイトの使用:
WebブラウザでPubChemにアクセスします。
検索バーに「caffeine」と入力して検索します。
検索結果には、カフェインに関連する複数のエントリが表示されることがあります。一般的には、化学的に正確な化合物を選択します。カフェインの詳細ページに移動すると、SMILES形式や他の構造データ(InChI、3D構造など)が確認できます。
2. 分子名以外での検索:
PubChemの検索機能は非常に強力で、分子名だけでなく、化学名、異名、CAS番号、分子式、構造式の一部など、さまざまな識別子で検索が可能です。例えば、カフェインのCAS番号「58-08-2」を使っても同じ情報にアクセスできます。
検索バーに「58-08-2」または他の化学名(例:「1,3,7-トリメチルキサンチン」)を入力して検索し、結果のリストからカフェインを選択します。
3. 構造を描いて検索する機能:
PubChemのもう一つの強力な機能は、分子構造を手動で描いて検索できる「構造検索」機能です。これにより、既知の分子名や識別子がない場合でも、化学構造を基にして情報を検索することができます
PubChemトップページのメニューから「Drow Stracture」を選択し、構造エディタを使って分子の構造を描きます。描いた構造に基づいて類似の分子を検索し、必要な化合物を特定できます。
4. Pythonを使ったPubChemデータ取得:PythonのライブラリであるPubChemPyを使用して、カフェインのSMILES形式を取得することもできます。以下のコードをGoogle Colabのセルに入力して実行します。
import pubchempy as pcp
# カフェインのSMILES形式を取得
compound = pcp.get_compounds('caffeine', 'name')[0]
smiles = compound.isomeric_smiles
print(f'カフェインのSMILES形式: {smiles}')
このコードにより、カフェインのSMILES形式が表示されます。
3.2 SMILES形式の活用
SMILES形式とは
SMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)は、分子をテキストで簡潔に表現する形式です。化学構造を簡単に扱えるため、コンピュータによる分子情報の処理に広く利用されています。
SMILESを使った簡単な分子構造の定義
カフェイン分子のSMILES形式を使って、分子構造を定義し、RDKitを使ってその構造を操作します。以下のコードを実行して、カフェインの分子構造を生成します。
from rdkit import Chem
# カフェインのSMILES形式
smiles = 'CN1C=NC2=C1C(=O)N(C(=O)N2C)C'
# RDKitを使って分子構造を生成
mol = Chem.MolFromSmiles(smiles)
# 分子構造の確認
mol
このコードにより、RDKitがカフェインの分子構造を生成します。
3.3 分子構造の可視化
生成したカフェイン分子の構造を視覚化するために、Google Colabではpy3Dmol
を使用します。
import py3Dmol
# 分子を3Dで表示
viewer = py3Dmol.view(width=400, height=300)
viewer.addModel(Chem.MolToMolBlock(mol), 'sdf')
viewer.setStyle({'stick': {}})
viewer.zoomTo()
viewer.show()
このコードにより、以下のようなカフェインの3D構造が表示されます。
3.4 分子構造作成からエネルギー計算
ここからは、様々な方法で分子構造を生成し、PySCFでエネルギー計算を行う手順を解説します。今回はSMILES形式、InChI形式、化合物名を基にPubChemを使って分子構造を自動取得します。 されに構造生成手法の一つであるRDKit[6]を使用して、分子をXYZ形式に変換し、その構造を基にエネルギー計算を行います。
エネルギー計算の目的
エネルギー計算は、分子の電子構造に関する物理化学的な情報を得るための重要な手段です。特定の構造に対する分子の全エネルギーを計算することで、その安定性や反応性を理解することができます。この手法は、有機分子や金属錯体などの分子系の理論的研究、分子設計、そして材料開発などの分野において広く応用されています。より具体的な方法は以下の記事で解説しています。
https://labo-code.com/python/quantum-chemical-calculation/pyscf-sp/
分子構造生成の柔軟性
分子構造を生成するためには、以下のような多様な方法を利用することができます。これにより、研究者はその場に応じて最適な方法を選択することが可能です。
- SMILES形式:
- 分子をテキストベースで表現するシンプルかつ強力な方法。SMILES形式を使用することで、分子構造を簡単に定義できます。
- InChI形式:
- 化学構造を表現するための標準化された文字列で、広く使用されています。InChIは多くの化学データベースでサポートされており、特定の構造を一意に識別できます。
- 化合物名:
- 分子名や化合物名からPubChemのような化学データベースを通じて分子構造を取得することができます。この方法は、化合物名しかわからない場合や、構造データが容易に入手できない場合に便利です。
具体的なステップ
- 分子構造の取得:
- SMILES、InChI、または化合物名を基に、RDKitやPubChemを使用して分子構造を取得します。
- 水素原子の追加:
- 生成された分子に対して水素原子を明示的に追加し、完全な構造を作成します。このステップは、特に分子の化学結合や形状が正確に反映されるために重要です。
- 3D構造の生成と最適化:
- RDKitのユニバーサルフォースフィールド(UFF)を使って、分子の3D構造を生成し、最適化します。これにより、分子の最安定構造が得られます。
- XYZ形式での出力:
- 最適化された分子構造をXYZ形式に変換します。XYZ形式は、PySCFや他の量子化学計算ツールに対応する座標フォーマットです。
- エネルギー計算の準備:
- PySCFにXYZ形式の座標データを入力し、STO-3G基底関数セットを用いてエネルギー計算を準備します。
- Hartree-Fock (HF)計算の実行:
- 最後に、Hartree-Fock法を使って分子のエネルギー計算を実行し、分子全体のエネルギーを取得します。
様々な方法で分子構造を生成する具体的なコード
以下のPythonコードは、SMILES、InChI、または化合物名を使用して分子構造を生成し、エネルギー計算を行う方法を示しています。
from rdkit import Chem
from rdkit.Chem import AllChem
from pyscf import gto, scf
import pubchempy as pcp
# 入力方法を指定: 'smiles', 'inchi', 'name'のいずれか
input_method = 'name' # 'smiles', 'inchi', 'name'
# 分子構造の取得
if input_method == 'smiles':
# SMILES形式を使用
smiles = 'CN1C=NC2=C1C(=O)N(C(=O)N2C)C' # カフェインのSMILES
mol = Chem.MolFromSmiles(smiles)
elif input_method == 'inchi':
# InChIを使用
inchi = 'InChI=1S/C8H10N4O2/c1-11-5-9-7-6(11)8(13)12(3)4-10-7/h1-5H,6H2'
mol = Chem.MolFromInchi(inchi)
elif input_method == 'name':
# 化合物名を使用してPubChemから取得
compound = pcp.get_compounds('caffeine', 'name')[0]
smiles = compound.isomeric_smiles
mol = Chem.MolFromSmiles(smiles)
else:
raise ValueError("入力方法が不正です。'smiles', 'inchi', 'name'のいずれかを指定してください。")
# 水素原子を追加
mol = Chem.AddHs(mol)
# 3D構造の生成と最適化
AllChem.EmbedMolecule(mol)
AllChem.UFFOptimizeMolecule(mol)
# XYZ形式で分子構造を取得
xyz_coords = Chem.MolToXYZBlock(mol)
# 原子の数とヘッダー情報を追加
num_atoms = mol.GetNumAtoms()
xyz_full = f"{num_atoms}\\\\nCaffeine molecule\\\\n" + xyz_coords
# 必要な行のみを抽出(5行目以降)
xyz_lines = xyz_full.splitlines()
xyz_trimmed = "\\\\n".join(xyz_lines[4:])
print("使用するXYZデータ:")
print(xyz_trimmed)
# PySCFでカフェイン分子のエネルギー計算
mol_pyscf = gto.Mole()
mol_pyscf.atom = xyz_trimmed
mol_pyscf.basis = 'sto-3g'
mol_pyscf.build()
# HF計算を実行
mf = scf.RHF(mol_pyscf)
energy = mf.kernel()
print(f'カフェイン分子のエネルギー: {energy} Hartree')
ここまでのまとめ
有機分子の構造は、SMILES、InChI、化合物名といった様々な方法で生成できます。これにより、分子データを容易に取得し、量子化学計算に使用することが可能です。RDKitやPubChemを使えば、これらの形式から分子を簡単に扱うことができ、さらにPySCFを使ったエネルギー計算もスムーズに行うことができます。
4. 金属錯体の分子構造生成
ここからは、金属錯体の構造を生成し、PySCFを用いてエネルギー計算を行う手順について解説します。特に、Avogadroを使用した構造の生成と、金属錯体におけるECP(Effective Core Potential)の使用について説明します。
金属錯体は、中心に金属原子を持ち、その周りに配位子が結合している分子です。このような構造は、配位数や結合角度が重要な役割を果たし、そのために適切なモデリングが必要です。ここでは、Avogadroを使用して金属錯体の分子構造を生成し、PySCFで計算を行う方法を紹介します。
4.1 金属錯体の特殊性
金属錯体における配位数と結合の取り扱い
金属錯体では、金属中心に結合する配位子の数(配位数)やその配置(結合角度)が錯体の性質に大きな影響を与えます。例えば、六配位の八面体型構造や四配位の正方形平面型構造などがあります。これらの構造は、錯体の安定性や反応性に関わります。
金属錯体の電子構造の考慮
金属錯体では、金属のd軌道が化学結合に関与するため、電子構造が複雑です。また、金属の酸化状態やスピン状態も錯体の性質に影響を与えます。これらの要素を考慮に入れて、正確なモデルを作成することが重要です。
4.2 Avogadroでの金属錯体構造の作成
Avogadro[7]は、分子構造の視覚化と編集を行うためのGUIベースのオープンソースソフトウェアです。金属錯体の構造生成にも非常に有用です。以下の手順では、Cu2(OAc)4(H2O)2の構造を生成し、PySCFで使用するためにエクスポートします。
Avogadroの基本的な使い方
1. Avogadroのインストール:
Avogadro公式サイトからソフトウェアをダウンロードし、インストールします。
2. 新しい分子を作成:
Avogadroを起動し、「新しい分子」を作成します。
3. 金属原子の追加:
ツールバーから「原子」を選択し、画面上でクリックして金属原子(例: Cu)を配置します。
4. 配位子の追加:
配位子を構成する原子(例: CやO)を選択し、配置します。その後、原子間をドラッグして原子を結合させます。必要に応じて結合の種類(二重結合、三重結合など)を選択してください。
5. 結合角度の調整:
Avogadroの自動最適化機能を使用して、力場に基づいて構造を最適化します。ツールバーから「Auto Optimize」を選択し、構造を調整します。
6. 分子座標の抽出:
構造が完成したら、Avogadroのメニューから「Build」→「Cartesian Editor」を選択し、座標をコピーします。これらの座標をPySCFで使用します。
4.3 PySCFでの金属錯体のエネルギー計算
Avogadroを使用して生成した金属錯体の分子構造を基に、PySCFを使用して金属錯体のエネルギー計算を行います。ここでは、ECP(Effective Core Potential)を使用して、計算効率を向上させる方法も含めて説明します。
ECP(Effective Core Potential : 有効内殻ポテンシャル)の導入
ECPは、金属原子のコア電子を簡略化し、価電子にのみ集中して計算を行うための技術です。重金属原子を含む錯体の場合、全電子を用いた計算は計算量が非常に大きくなりますが、ECPを使用することで、計算負荷を軽減しつつ、精度を保つことができます[8]。
- ECPの利点:
- 金属原子のコア電子を簡略化することで、計算効率を向上させる。
- 計算リソースの節約に寄与し、より大きな分子系を扱う際に有用。
PySCFでのエネルギー計算の流れ
PySCFを用いたエネルギー計算は、以下のステップに従って進めます。
- 分子構造の読み込み: Avogadroから生成したXYZ形式の分子座標を読み込みます。このXYZ形式には、金属原子を含む分子の全ての原子の座標が記載されています。
- ECPの設定: 金属原子に対してECPを適用します。今回は、代表的な
lanl2dz
基底関数セットを使用します。 - PySCFでのHartree-Fock(HF)計算: PySCFのHartree-Fock計算モジュール(SCFモジュール)を使用して、エネルギー計算を実行します。
- 計算結果の表示: 計算が完了した後、金属錯体全体のエネルギーをHartree単位で表示します。
PySCFを用いた具体的な計算手順
次に、具体的なPythonコード例を示します。このコードでは、Cu2(OAc)4(H2O)2の分子構造に対してECPを適用し、Hartree-Fock法によるエネルギー計算を実行します。
from pyscf import gto, scf
# Cu2(OAc)4(H2O)2のXYZ座標
xyz_coords = """
Cu 2.8898372337 -0.9192330457 -0.8394236743
Cu 0.7865313764 -0.5312879604 -0.0888319547
O 2.3310001374 -0.5022456458 -2.5257361673
O 3.4079139908 -1.3311473855 0.8747310989
O 0.2509832999 -0.1170962087 -1.7992246795
O 1.3293387075 -0.9437899716 1.6005862346
O -0.9495897064 -0.2054985129 0.5483864324
O 4.6108299829 -1.2621308469 -1.4770405396
O 3.3146112984 0.8427165974 -0.5472352179
O 2.4235392188 -2.6626446659 -1.1148040652
O 0.3406736717 -2.2790256014 -0.3727431498
O 1.2342460004 1.2267211486 0.2008676283
C 2.8599566295 3.0233146598 0.1220532868
C 3.0592664885 -1.6243566365 3.1552205071
C 2.6114914767 -1.2900102723 1.7975024727
C 0.6006572331 0.1764515747 -4.0774478347
C 1.0462478350 -0.1584410345 -2.7206749329
C 0.7929677359 -4.4580105329 -1.0414941056
C 1.1711170906 -3.0569649609 -0.8192207829
C 2.4877404780 1.6210776928 -0.0988751002
H -0.0426906661 -4.4843524778 -1.7664314737
H 1.6627649864 -5.0119107117 -1.4439946773
H 0.4808089225 -4.8924423246 -0.0732361148
H 0.7696158198 -0.7048587219 -4.7241485106
H -0.4752846778 0.4370761490 -4.0621528397
H 1.1950856616 1.0384467817 -4.4356414644
H 2.7239920936 3.2508344275 1.1961600209
H 3.9163648216 3.1793473259 -0.1694293457
H 2.1969522673 3.6584216537 -0.4951399169
H 4.1351954776 -1.8866643460 3.1390649084
H 2.8928900195 -0.7425231670 3.8020099857
H 2.4634134167 -2.4848549009 3.5127163314
H -1.2106508518 0.6400580523 0.1105070020
H 5.1948475224 -0.8104098930 -0.8215229042
"""
# PySCFで金属錯体のエネルギー計算
mol = gto.Mole()
mol.atom = xyz_coords
mol.basis = 'sto-3g'
mol.ecp = {'Cu': 'lanl2dz'} # Cuに対してECPを適用
mol.build()
# HF計算を実行
mf = scf.RHF(mol)
energy = mf.kernel()
print(f'Cu2(OAc)4(H2O)2のエネルギー: {energy} Hartree')
コード解説
- 分子構造の設定:
xyz_coords
として、Avogadroから抽出した金属錯体の分子座標を設定しています。今回の座標データは、Cu2(OAc)4(H2O)2を使っています。”””
で囲うことに注意しましょう。
- PySCFのMoleオブジェクトを作成:
- PySCFの
gto.Mole()
を使用して、分子オブジェクトを作成します。分子の座標(mol.atom
)、基底関数(sto-3g
)、およびECPを指定します。
- PySCFの
- ECPの適用:
mol.ecp
を使用して、Cu原子に対してECP(lanl2dz
)を適用しています。これにより、Cuのコア電子を簡略化した計算を行います。その他の原子にはsto-3g
が適用されます。
- Hartree-Fock計算の実行:
scf.RHF(mol)
でHartree-Fock計算を実行し、エネルギー結果を出力します。
結果の確認
計算結果として、Cu2(OAc)4(H2O)2の全エネルギーがHartree単位で表示されます。
converged SCF energy = -1427.81353944414
Cu2(OAc)4(H2O)2のエネルギー: -1427.8135394441429 Hartree
4.4 計算結果の活用
金属錯体のエネルギー計算結果を、他の計算結果や実験データと比較することで、さらなる理解が得られます。以下は、計算結果を活用するいくつかの方法です。
- 異なる錯体のエネルギー比較
Cu2(OAc)4(H2O)2のエネルギー計算結果を他の金属錯体のエネルギーと比較することで、異なる構造間の相対的な安定性を評価することができます。例えば、配位子を変更した錯体や他の金属を用いた錯体との比較を行うことで、金属中心や配位子の影響、HOMO-LUMOの変化を分析できます。
- 構造最適化と相対エネルギー
さらに詳しい研究のためには、分子構造の最適化計算を行うことが考えられます。最適化された構造に対してエネルギー計算を行い、相対エネルギーの変化を確認することで、安定な構造を見つけることができます。
- スペクトル解析の前段階としてのエネルギー計算
エネルギー計算は、さらに詳細な解析、特にスペクトル解析やUVスペクトル解析のための基礎情報として利用されます。特に金属錯体では、遷移状態や励起状態の計算も重要な要素となり得ます。Time-Dependent Density Functional Theory(TD-DFT)や他の高度な手法をPySCFを用いて実施することが可能です。
終わりに
本記事では、有機・金属錯体分子構造の生成からエネルギー計算までを解説しました。PySCFはPythonで動かせるため、Pythonを用いた分子生成と相性が良いです。SMILESやInChI、CIFファイルを使って分子構造を手軽に扱うことができ、さらにECPを使用することで計算効率を高めることが可能です。この記事を参考に、PySCFを活用して多様な分子の解析を行ってみてください。
参考文献
[1] PySCF 2.4 公式サイト, https://pyscf.org/, (参照2024-09-07)
[2] Q. Sun, X. Zhang, S. Banerjee, P. Bao, M. Barbry, N. S. Blunt, N. A. Bogdanov, G. H. Booth, J. Chen, Z.-H. Cui, J. J. Eriksen, Y. Gao, S. Guo, J. Hermann, M. R. Hermes, K. Koh, P. Koval, S. Lehtola, Z. Li, J. Liu, N. Mardirossian, J. D. McClain, M. Motta, B. Mussard, H. Q. Pham, A. Pulkin, W. Purwanto, P. J. Robinson, E. Ronca, E. R. Sayfutyarova, M. Scheurer, H. F. Schurkus, J. E. T. Smith, C. Sun, S.-N. Sun, S. Upadhyay, L. K. Wagner, X. Wang, A. White, J. Daniel Whitfield, M. J. Williamson, S. Wouters, J. Yang, J. M. Yu, T. Zhu, T. C. Berkelbach, S. Sharma, A. Yu. Sokolov, and G. K.-L. Chan, Recent developments in the PySCF program package, J. Chem. Phys. 153, 024109 (2020).
[3] Q. Sun, T. C. Berkelbach, N. S. Blunt, G. H. Booth, S. Guo, Z. Li, J. Liu, J. McClain, S. Sharma, S. Wouters, and G. K.-L. Chan, PySCF: the Python-based simulations of chemistry framework, WIREs Comput. Mol. Sci. 8, e1340 (2018).
[4] py3Dmol in Jupyter, https://birdlet.github.io/2019/10/02/py3dmol_example/ (参照2024-09-07).
[5] Kim, S., Thiessen, P.A., Bolton, E.E., Chen, J., Fu, G., Gindulyte, A., Han, L., He, J., He, S., Shoemaker, B.A., Wang, J., Yu, B., Zhang, J., Bryant, S.H., PubChem Substance and Compound databases, Nucleic Acids Research, 44(D1), D1202-D1213 (2016).
[6] Landrum, G., RDKit: Open-source cheminformatics, GitHub repository (2006).
[7] Hanwell, M.D., Curtis, D.E., Lonie, D.C., Vandermeersch, T., Zurek, E., Hutchison, G.R., Avogadro: An advanced semantic chemical editor, visualization, and analysis platform, Journal of Cheminformatics, 4, 17 (2012).
[8] Hay, P.J., Wadt, W.R., Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for K to Au including the outermost core orbitals, The Journal of Chemical Physics, 82(1), 299-310 (1985).
Gaussianを使った量子化学計算の初心者向け技術書を販売中
しばしば出くわすエラーへの対処法をはじめ
Gaussianと無料ソフトウェア Avogadro を組み合わせた物性解析手法が学べます!