【ACFIS2.0】ACFIS2.0を用いたfragment-based 創薬【in silico創薬】

【ACFIS2.0】ACFIS2.0を用いたfragment-based 創薬【in silico創薬】

この記事は、フラグメントベースの薬剤開発(FBDD)というというin silico創薬技術について紹介しています。実際にFBDDのソフトウェアであるACFIS2.0を使ってパーキンソン病の薬を自身のコンピュータ上で発見する方法が解説されており、具体的な化合物も紹介されています。学ぶことで、最新の創薬技術であるACFIS2.0について理解し、自身のコンピュータ上で創薬を体験することができます。医薬品開発や薬学に関心のある人にとって、有益な情報となると思います。ぜひ、トライしてみてください!

動作検証済み環境

macOS Ventura(13.2.1)

Fragment-based in silico創薬とは?


Fragment-based 創薬(フラグメントベースの薬剤開発(FBDD))とは、コンピュータを使って新しい薬剤を設計・開発する手法の一つです。この手法では、小さな分子の断片(フラグメント)もしくは既存のリガンドの断片を使用して、断片を伸ばしたりして、薬剤の設計や最適化を行います。このようなフラグメントベースのアプローチは、複雑な分子間相互作用を解析し、既知の薬剤からさらに活性のある新しい薬剤の設計を効率的かつ費用対効果の高い方法で行うことができます。また、実験的なスクリーニングや化学合成の手間や費用を削減することができるため、創薬のスピードや効率を向上させるのに役立ちます。

ACFIS2.0とは?


ACFIS(Auto Core Fragment in silico Screening)サーバーは、FBDDにおいて潜在的な薬剤リードを特定するための、確立された効果的なオンラインツールです。しかし、弱い結合親和性により、タンパク質とフラグメントの結合モードと親和性を正確に予測することはまだ大きな課題がありました。そこで、タンパク質の柔軟性を考慮するために、ダイナミックなフラグメント拡張戦略を取り入れたACFIS 2.0が開発されました。ACFIS 2.0の主な改善点は次の通りです:(i) ヒット化合物の同定の精度の向上(同じテストセットを使用して75.4%から88.5%へ)、(ii) より合理的なタンパク質-フラグメントの結合モード、(iii) 拡大されたフラグメントライブラリによる構造の多様性の増加、および(iv) 分子の性質を予測するためのより包括的な機能の追加。ACFIS 2.0を使用してパーキンソン病、がん、および重度の抑うつ症状の治療薬リード化合物が発見されました。

この記事では論文で示されているパーキンソン病の薬を例に使い方を提示しながら、実際にやってみたいと思います。

ACFIS 2.0: an improved web-server for fragment-based drug discovery via a dynamic screening strategy

タンパク質のinput、ライブラリの選定


では早速FBDDをしてみましょう!まずACFISのサイトに飛んでください。

その後、

1. 望みのタンパク質のPDBから選んでください。今回はパーキンソン病の標的であるmonoamine oxidase-B (MAO-B)(PDB: 2v5z)を選択します。

2. 使いたいライブラリを選んでください。今回はApproved Drugを用います。

3. その他の項目を記入ください。パスワードを設定すれば、他の人に結果を見ることを防ぐことができます。

4. Submitを押して下さい。

5. FBDDに用いるリガンドを選択し、Submit for Screeningを押してください。今回は右側の化合物を使います。

以上が設定です。あとは自動でFBDDが行われ、しばらくすると結果が出力されます。1~6時間ほどかかります。

ここではパーキンソン病の標的であるmonoamine oxidase-B (MAO-B)(PDB: 2v5z)に対してFBDDを行っていきます。ライブラリはApproved Drugを用います。(元論文ではComprehensive Fragmentライブラリはを用いています。)

パーキンソン病は、脳内のドパミンが不足することによって、手足が動かしにくくなる病気です。ドパミンは、脳内の黒質で作られますが、パーキンソン病では黒質にレビー小体が蓄積することで、黒質の神経細胞が減少し、作られるドパミンが減少します。パーキンソン病の症状は、運動症状と非運動症状に分けられます。運動症状には、手や足、あごなどのふるえ、手足の筋肉がこわばる、動作が遅くなる、体のバランスが悪くなるなどがあります。非運動症状には、便秘、頻尿、立ちくらみ、気分の落ち込み、不安、幻視、においが分からない、不眠、日中の眠気、物忘れ、注意散漫などがあります。治療には、薬物療法やリハビリテーションがあります。薬物療法では、ドパミンの分解を阻害するMAO-B阻害薬やドパミン作動薬などが使用されます。

MAO-Bは、モノアミン酸化酵素の一種であり、ドパミン、セロトニン、ノルエピネフリンを分解する酵素です。パーキンソン病においては、MAO-B阻害薬が使用され、MAO-Bの働きを阻害することによって、脳内のドパミン濃度を上昇させ、運動症状を改善します。

ACFIS2.0のワークフロー


こちらでやることはほぼありませんが、ACFIS2.0の仕組みについて解説します。

ACFIS 2.0を使用したFBDDの全体的なワークフローは、2つのモジュールに分けられる4つのステップに分けることができます。開始モジュールはCORE GENと名付けられ、与えられたリガンド構造からコアフラグメントを生成するように設計されています。このモジュールは、フラグメントの分解とコアフラグメントの識別の2つのステップで構成されています。2つ目のモジュール、CAND GENの目的は、コアフラグメントから候補化合物を導き出すことです。CAND GENモジュールは、コアフラグメントに基づく動的フラグメント成長(最初のモジュールで識別された)と候補選択のための分子特性評価の2つの順序的なステップで構成されています。ACFIS 2.0パイプラインのコアプロセスは、以前に開発した薬理学的フラグメント仮想スクリーニング(PFVS)方法に基づいて組織化されています。4つのステップの詳細は、補足テキストS1に記載されています。

(論文のFigure1Aを参照しています)

結果


Jobsにあるstatusがfinishedになっていたら、解析は終了しています。JOB IDから自身が行った解析を選択し、解析ページへと入って下さい。タンパク質とリガンドの複合体は3D画面で自由に見ることができます。左側のリストでは一番上が最初に入力したリガンドを表し、その後は結合力が高いもの順に並んでいます。また結合リガンドの物理学的性質もまとめてあります。

さらに下に行くと詳細なデータが表示されています。

  1. Molecular Weight: 化合物の分子の質量を示します。高分子量は化合物が大きいことを示し、過度に高いと薬物としての生物学的利用可能性が低下する可能性があります。
  2. Number of Heavy Atoms: 化合物の分子内の水素以外の原子の数を示します。重原子の数が多いと、化合物が大きいことを示します。
  3. H-bond Donor & H-bond acceptor: 水素結合供与体と受容体の数を示します。これらの数が多いと、化合物が他の分子と強く相互作用する可能性が高いことを示します。
  4. Polar Surface Area: 分子の極性部分の表面積を示します。極性表面積が大きいと、化合物が水溶性である可能性が高く、細胞膜を通過する能力が低い可能性があります。
  5. LogP: 化合物の親油性を示すパラメーターで、水とオクタノールとの間の分配係数の対数を示します。LogPが高いと、化合物が親油性であることを示し、細胞膜を通過する能力が高い可能性があります。
  6. Number of Rings & Number of Aro Rings: 化合物のリング構造の数を示します。これらの数が多いと、化合物が複雑であることを示します。
  7. Number of Rotated Bonds & Number of Aro Bonds: 化合物の回転可能な結合と芳香族結合の数を示します。これらの数が多いと、化合物が複雑であることを示します。
  8. Binding free energy (ΔG): リガンドがターゲットと結合する際のエネルギー変化を示します。ΔGが低いと、リガンドがターゲットと強く結合することを示します。
  9. Ligand efficiency: 結合自由エネルギーをリガンドの重原子の数で正規化した値です。リガンド効率が高いと、リガンドがそのサイズに対して強くターゲットと結合することを示します。
  10. Entropy change (-TΔS), Enthalpy Change (ΔH), van der Waals energy (ΔE vdw ), Electrostatic energy (ΔE ele ), Polar solvation free energy (ΔE PB ), Non-Polar solvation free energy (ΔE SA ): これらはリガンドがターゲットと結合する際のエネルギー変化の詳細を示します。これらのエネルギー変化が大きいと、リガンドとターゲットとの結合が強いことを示します。また、これらのパラメーターは結合の自然な状態を示すため、これらの値が大きいほど、リガンドとターゲットとの結合が安定する可能性があります。
  11. Drug/Pesticide-like evaluation: これらの評価が高いと、化合物が薬物や農薬としての特性を持つ可能性が高いことを示します。これらの評価は、化合物が生物学的な活性を示す可能性や、人体や環境に対する安全性を示すものです。
  12. Synthetic accessibility: 合成可能性が低いと、化合物が実験室で合成するのが難しいことを示します。これは、新しい薬物候補の開発において重要な考慮事項であり、合成可能性が高い化合物は、開発と製造が容易である可能性が高いです。

さて、この結果によりinputで導入したリガンド(Binding free enegy:ΔG =-39.23)よりも結合力の高いリガンド80(Binding free enegy:ΔG =-55.931)を発見することができました。

最後に


いかがでしたでしょうか?ブラウザ操作で簡単に活性が高い可能性のある化合物を発見できるのはとても魅力出来だと思います!ライブラリの変更でも出力される化合物は違うので、いろいろ試してみて下さい。ぜひ使ってみて、化合物の活性向上にお役立て下さい!

元論文

ACFIS 2.0: an improved web-server for fragment-based drug discovery via a dynamic screening strategy

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です