Protein-Ligand Interaction Profiler (PLIP) は、タンパク質-リガンド相互作用を詳細に解析するツールです。本記事では、PLIPのチュートリアルにあるカテプシンとその阻害剤(PDB ID:1VSN)を例にとり、そのリガンドとの相互作用解析を行います。さらに、よくあるエラーの対処法も記載しています。ぜひご覧ください!
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目次
1. PLIPとは?
PLIPは、PDBフォーマットのタンパク質-リガンド複合体から相互作用を自動検出するツールです。以下のような相互作用を解析できます。
- 水素結合 (Hydrogen Bonding)
- 疎水性相互作用 (Hydrophobic Interactions)
- 塩橋 (Salt Bridges)
- π-スタッキング (π-Stacking)
- 金属配位結合 (Metal Coordination)
- ハロゲン結合 (Halogen Bonds)
PLIPは Pythonベース で動作し、コマンドラインまたはWebインターフェースで利用可能です。ブラウザで簡単にやりたい方はこちら。
以下のような論文に実際に使われているツールですので、本記事で出てきた図をそのまま掲載することも可能です。
2. PLIPの環境構築
2.0. 環境構築の手順(全コード)
#仮想環境の構築
conda create -n in_silico python=3.9
conda activate in_silico
#openbabelのインストール
conda install -c conda-forge openbabel
obabel -V
#Pymolのインストール
conda install -c conda-forge pymol-open-source
pymol -h
#PLIPのインストール
git clone <https://github.com/pharmai/plip.git>
cd plip
pip install .
仮想環境を作成し、各ツールをインストールしていきます。
詳細なコード解説は以下の通りです。
2.1. 仮想環境 in_silico
の作成
conda create -n in_silico python=3.9
conda create -n in_silico python=3.9
は、新しい仮想環境in_silico
を作成し、Python 3.9 をインストールします。n in_silico
は環境名を指定し、python=3.9
は特定のPythonバージョンを選択するオプションです。
conda activate in_silico
conda activate in_silico
は、作成したin_silico
環境を有効化し、その環境内で作業できるようにします。
2.2. Open Babelのインストール
conda install -c conda-forge openbabel
obabel -V
conda install
はパッケージをインストールするコマンド。c conda-forge
は、conda-forge
というチャンネル(パッケージリポジトリ)からパッケージを取得する指定。openbabel
は分子変換ツール Open Babel のインストール。
2.3. Pymolのインストール
conda install -c conda-forge pymol-open-source
pymol -h
2.4. PLIPのインストール
git clone <https://github.com/pharmai/plip.git>
git clone
は、GitHubからPLIPのリポジトリをローカルにコピーするコマンド。
cd plip
cd plip
は、ダウンロードしたPLIPのディレクトリへ移動するコマンド。
pip install .
pip install .
は、現在のディレクトリ (.
) にあるsetup.py
を使ってPLIPをインストール。
plip --help
plip --help
は、PLIPのヘルプメッセージを表示し、正しくインストールされたか確認するコマンド。
3. Cathepsin Kと阻害剤の相互作用解析
3.0 全コード
#pdbファイルのダウンロード
wget <https://files.rcsb.org/download/1VSN.pdb>
#PLIPの実行
plip -f 1vsn.pdb -yv
#可視化
pymol 1VSN_NFT_A_283.pse
3.1 PDBファイルのダウンロード
wget <https://files.rcsb.org/download/1VSN.pdb>
wget
は、指定したURLからファイルをダウンロードするコマンド。
3.2 PLIPによる相互作用解析
plip -f 1vsn.pdb -yv
f 1vsn.pdb
は、解析対象のPDBファイルを指定。y
は、追加の PyMOL セッションファイルを生成します。これにより、PLIP の解析結果を PyMOL で視覚的に確認・再現できるファイルが作成され、分子構造や相互作用の詳細な可視化が可能になります。v
は詳細(verbose)モードを有効にします。実行中により多くのログや解析の進行状況、内部処理の情報が出力され、デバッグや解析の状況把握に役立ちます
3.3 結果の確認
pymol 1VSN_NFT_A_283.pse
- 上記のコードでpymolで解析結果を表示します。
bg_color black
で背景を黒にもしてください。各結合がいい感じで見れます。

各色の意味は以下の通りです。
相互作用の種類 | 説明 | PyMOLの色 | 表現方法 |
---|---|---|---|
疎水性相互作用 (Hydrophobic Interaction) | 疎水性部位同士のファンデルワールス力 | grey50 (グレー) | 点線 (dashed) |
水素結合 (Hydrogen Bond) | 極性基同士の相互作用 | blue (青) | 実線 (solid line) |
水架橋 (Water Bridges) | 水分子を介した結合 | lightblue (ライトブルー) | 実線 (solid line) |
π-π スタッキング (平行型) (pi-Stacking parallel) | 平行な芳香環の相互作用 | green (緑) | 点線 (dashed line) |
π-π スタッキング (垂直型) (pi-Stacking perpendicular) | 垂直な芳香環の相互作用 | smudge (スモッジ) | 点線 (dashed line) |
カチオン-π 相互作用 (pi-Cation Interaction) | 芳香環と陽イオンの静電相互作用 | orange (オレンジ) | 点線 (dashed line) |
ハロゲン結合 (Halogen Bond) | ハロゲン原子を介した相互作用 | greencyan (グリーンシアン) | 実線 (solid line) |
塩橋 (Salt Bridge) | 正負の電荷を持つ官能基間の静電結合 | yellow (黄色) | 点線 (dashed line) |
金属錯体 (Metal Complex) | 金属イオンとリガンドの配位結合 | violetpurple (バイオレットパープル) | 点線 (dashed line) |
分子ドッキングした後の化合物保存の注意点
分子ドッキング後に、PLIPを行おうとすると、場合によっては以下のように化合物が変形した形で出てきます。これはタンパク質と化合物のcomplexの保存の仕方を工夫することで、解決できます。

以下の手順で行うと解決します。
- まずリガンドを先にpymolにロードしてください。
- 次にタンパク質をpymolにロードしてください。
- タンパク質がA鎖、B鎖ある場合は片方だけにしてください。
- File→Export Structure→Export Moleculeを押してください。
- 以下の画面をSelection:
enabled
、State:-1(current)
に設定してください。

6. PDB Optionsにいき、Write CONECT records for all bonds
にチェックを入れてください。

7. Save…
を押します。
上記の方法で解析すると正しい形で出力されます。

まとめ
本記事では、PLIPを用いたCathepsin Kと阻害剤の相互作用解析を紹介しました。PLIPは迅速かつ詳細な相互作用解析を可能にするため、創薬研究において非常に有用です。
ぜひPLIPを活用して、タンパク質-リガンド相互作用を解析してみてください!
参考文献
GitHub – pharmai/plip: Protein-Ligand Interaction Profiler – Analyze and visualize non-covalent protein-ligand interactions in PDB files according to 📝 Adasme et al. (2021), https://doi.org/10.1093/nar/gkab294