本記事はNetwork phrmacologyの内容の一つで、疾患から標的タンパク質の特定を行います。Open TargetsというWebサイトを使って簡単にできるので、ぜひトライしてみて下さい。
Mac M1, Sequoia 15.3
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Network pharmacologyとは?
Network pharmacology(ネットワーク薬理学)は、漢方薬や機能性食品に含まれる複数の成分が、体内のさまざまな標的(タンパク質、遺伝子など)に同時に作用し、複雑な生理的効果をもたらす仕組みを「ネットワーク」として解析する手法です。
従来の薬理学が「1成分=1標的」の考え方に基づいていたのに対し、ネットワーク薬理学は「多成分=多標的=多経路」の全体像をとらえます。たとえば、漢方薬「黄芩」に含まれるバイカリンなどの成分が、乳がんに関与する複数の遺伝子やシグナル経路に作用している可能性を、各種データベースを用いて可視化できます。
これにより、伝統的処方の有効性を科学的に裏付けたり、新たな疾病への応用可能性を探索したりすることができます。
Network pharmacologyの流れ
- 成分取得:PubChemなど各種データベースを使って、漢方や食品中の有効成分を調査する。
- 標的予測:SwissTargetPrediction、ChEMBL Multitask Neural Network modelなどを用いて、成分が結合する可能性のある標的タンパク質を予測する。
- 疾患関連遺伝子の収集:DisGeNETやGeneCardsを使って、対象とする疾患に関係する遺伝子やタンパク質の情報を収集する。
- 共通ターゲットの抽出:成分の標的と疾患関連遺伝子を照合し、共通の遺伝子(ターゲット)を見つける。
- ネットワーク構築・可視化:成分、標的、疾患の関係性をCytoscapeなどでネットワーク図として可視化する。
以下の論文を参考にし、漢方のScutellaria baicalensis(オウゴン (黄芩))の成分と乳がんの標的タンパク質を明らかにし、黄芩のどの成分が、乳がんの標的に結合するか明らかにしていきます。
今回は3の疾患関連遺伝子の収集を行います。論文ではDisGeNETやGeneCardsを用いていますが、ライセンスの関係上Open Targetsを使います。
Open Targetsとは
Open Targetsは、医薬品開発における標的発見とバリデーションを加速するために設計された、公開されている大規模なデータ統合プラットフォームです。主に、疾患と遺伝子/タンパク質の関連性に関する網羅的な情報を提供しています。
このプラットフォームは、以下のような多様なデータソースから情報を集約・統合しています。
- 遺伝学データ: GWAS(ゲノムワイド関連解析)やシーケンシング研究などから得られた、疾患と遺伝的バリアントの関連性データ。
- 体性変異データ: 癌などの疾患における体細胞変異情報。
- RNA発現データ: 疾患組織と正常組織における遺伝子の発現レベルの違い。
- タンパク質発現データ: 疾患におけるタンパク質の発現情報。
- 表現型データ: 疾患の臨床症状や特性に関する情報。
- 動物モデルデータ: 疾患の動物モデルにおける遺伝子と表現型の関連性。
- 文献情報: 科学論文から抽出された、疾患と遺伝子/タンパク質の関連性に関する記述。
疾患から標的タンパク質を取得したい場合、Open Targetsのウェブインターフェースで疾患名を検索することで、その疾患に関連する遺伝子やタンパク質のリスト、およびそれらの関連性を示すエビデンススコアや詳細なデータソースを確認できます。これにより、疾患のメカニズム解明や新たな治療標的の同定に役立つ情報を効率的に取得することが可能です。
Open Targetsを使った疾患の標的タンパク質の検索
では早速Open Targetsを使っていきましょう。
ここからアクセスしてみて下さい。以下の画面になると思います。
今回の対象疾患はbreast cancerなので、breast cancer と入力して下さい。

次の画面になります。

縦軸に関連疾患名、横軸にAssociation Scoreや情報源が書いてあります。
各マスはその遺伝子と疾患の関連について、該当情報源からどれくらいの証拠の強さがあるかを示しています。(濃いほど強い)
次に右上のExportsからこのデータをダウンロードして下さい。

globalScoreでのフィルタリング
ここではダウンロードしたファイルのGlobalScoreでフィルタリングします。
以下のコードを実行して下さい。
import pandas as pd
# ▼ 入力ファイルのパス(ご自身のファイル名に合わせて変更)
input_file = "OT-MONDO_0007254-associated-targets-2025_7_8-v25_06.tsv"
# ▼ TSVファイルの読み込み
df = pd.read_csv(input_file, sep="\t")
# ▼ globalScoreが0.5以上の行をフィルタリング
df_filtered = df[df["globalScore"] >= 0.5]
# ▼ 結果の保存(CSVまたはTSVどちらでもOK)
df_filtered.to_csv("filtered_targets_globalScore_0.5.tsv", sep="\t", index=False)
# オプション:先頭5行を表示
print(df_filtered.head())以下のような結果になります。Symbolに標的名があります!

最後に
いかがでしたでしょうか?本記事ではOpen Targetsを用いて、疾患からその関連標的を見つけてきました。次の記事では以前の記事で化合物の標的を見つけたので、それとの共通タンパク質を見つけていきます。
参考文献
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