DGIdbによる変動遺伝子からの薬物候補化合物の探索【Cytoscape】【in silico創薬】【RNA seq】【scRNA seq】

DGIdbによる変動遺伝子からの薬物候補化合物の探索【Cytoscape】【in silico創薬】【scRNA seq】

本記事はNetwork pharmacologyという分野のDrug–Gene Interaction Networkについて紹介しています。

本記事を読むと、scRNA seq, RNA seqを元に得られた変動遺伝子に相互作用のある薬剤を見つけることができます。ぜひ参考にしてみてください!

動作検証済み環境

Apple M1 Pro, MacOS 14.6.1, Cytoscape v3.10.3

目次


Network Pharmacologyとは


ネットワーク薬理学は、システムバイオロジーと計算科学を活用し、薬物が生体内の複数の標的や経路にどう作用するかを解析する分野です。従来の「1薬1標的」モデルではなく、「1薬多標的」アプローチを採用し、薬の効果や副作用を包括的に理解します。疾患関連遺伝子ネットワーク、薬物標的ネットワーク、シグナル伝達経路解析などを組み合わせ、副作用の予測やドラッグリポジショニング(既存薬の新たな適応症探索)を支援します。個別化医療にも応用され、患者ごとの遺伝子情報に基づいた最適な治療法の開発にも貢献しています。

Drug–Gene Interaction Network(薬物–遺伝子相互作用ネットワーク)とは?


Drug–Gene Interaction Networkは、薬物と標的遺伝子の相互作用を解析し、薬の作用機序や副作用の予測に活用するネットワークモデルです。遺伝子発現データやゲノム解析を基に、特定の薬がどの遺伝子に影響を与えるかを可視化します。この手法は、がんや神経疾患の治療標的の特定、薬の再配置(Drug Repositioning)、個別化医療の推進に重要です。また、薬物が疾患関連遺伝子をどのように調節するかを解析し、多標的治療の可能性を探ることができます。

本記事では以下の論文のFig5のDrug-gene interaction networkの作成の仕方を記述しています。

Network‐based identification of key proteins and repositioning of drugs for non‐small cell lung cancer

Cytoscapeのインストール


まずはCytoscapeをインストールしてください。

【RNA-seq】Cytoscapeの使い方【ネットワーク解析】 – LabCode

今回例にする変動遺伝子はこの記事のものを参考にします。

UBL5,NDUFB8,CHMP2B,PRPF8,NOSTRIN,MFAP1,CWC22,PLCH2,PRPF31,ATP6AP1,DSC3,CLN5,CHDC2,PIP,ZNF473,DHX8,RAB5A,NUP98,NUPL1,HRK,SLC41A3,SNRPD3,SNRPD2,PCGF6,GSK3A,SLC2A2,ARCN1,ANGPTL3,COPB1,COPB2,STARD5,CYB5R4,DMD,FUS,COPS6,NOS3,SFXN2,CNTN5,IQSEC1,CRADD,STAC3,COPZ1,SULT1C4,EFTUD2,SLC35A1,B4GALT2,THRSP,NHP2L1,ZNF224,NXF1,PDLIM3,SAMM50,MTFR1,SART1,PCDHGA1,GINS2,MPG,GJA3,UBE2A,ESAM,CLK3,EIF4A2,NUTF2,INMT,SCYL3,XIAP,TRIM28,MPZL1,LY6G6C,RBM14,TPRX1,ATP6V0B,NUP107,ABCD1,TGS1,RPS4X,CRNKL1,YTHDC1,PPAN,PRRT1,KRTCAP2,GDPD5,ZNF132,WDR18,ATP5F1,AMOTL1,RPS16,CCDC74B,CCDC74A,SF3B1,SF3B3,SF3B2,MYOCD,MLKL,PRSS8,CACTIN,EIF2S1,ZNF16,PGD,SRP54,AQR,DYNC1I1,DCLRE1B,CALCOCO2,EVC2,LRP1B,ZNF552,COPG1,EPRS,COPA,ATP6V1G1,PIEZO1,FCGR2A,CPLX1,SNRPB,BACE1,ZNF154,RAB29,ATP6V0E2,AHCY,SLC1A3

DGIdbによる遺伝子と関連薬剤の情報取得


DGIdb(Drug-Gene Interaction Database)とは?

DGIdb(Drug-Gene Interaction Database)は、薬物と遺伝子の相互作用情報を統合した公開データベースです。医薬品開発や創薬研究に役立つ、薬物が標的とする遺伝子や、その相互作用の種類(阻害、活性化など)を提供します。データは論文、特許、公的データベースから収集され、APIやウェブインターフェースを通じて簡単に検索可能です。特定の遺伝子が標的とする薬や、特定の薬が作用する遺伝子を素早く特定でき、ドラッグリポジショニングや個別化医療の研究にも活用されます。

DGIdbの使い方解説

次にDGIdbにアクセスします!

上記の遺伝子をコピーし、Bulk searchにチェックをいれ、Commaを選択した後、Geneを入力します。終わったら、Searchを押してください。

その後、以下のような形で、geneと関連する薬剤がわかります。

  1. Gene Summary(遺伝子サマリー)
    • 左側に表示されているリストで、遺伝子名とその相互作用数が一覧になっています。
    • ここで特定の遺伝子を選択することで、詳細情報(相互作用する化合物など)が右のグラフに表示される仕組みになっています。
  2. Infographics(情報グラフ)
    • 選択した遺伝子の相互作用タイプや分布を視覚的に表示するエリア。
    • 棒グラフや円グラフを用いて、阻害剤(Inhibitor)、作動薬(Agonist)、拮抗薬(Antagonist)などの種類別の相互作用数が示されています。
  3. Interaction Results(相互作用結果)
    • 下部に表示されているデータテーブルで、遺伝子と薬物の相互作用リストが示されています。
    • 各行には、ターゲット遺伝子、関連する薬剤の名前、規制承認状況(例:「Not Approved」など)、および相互作用スコアが含まれています。
    • このセクションでは、具体的にどの薬剤が選択した遺伝子と関係しているかを詳細に確認することができます。
    • Interaction Scoreは、特定の遺伝子と薬剤の相互作用の信頼性や重要度を評価する指標です。これは、複数のデータソースから取得された情報を統合し、スコアリングすることで算出されます。 このスコアは、以下の要素を考慮して計算されます:
      1. エビデンススコア(Evidence Score):相互作用に関する文献数や情報源の数。信頼できる情報源からのデータが多いほど、エビデンススコアは高くなります。
      2. 相互作用の特異性:特定の薬剤や遺伝子が他の相互作用にどれだけ関与しているか。例えば、ある薬剤が多数の遺伝子と相互作用する場合、その特異性は低くなり、インタラクションスコアも低くなります。
      これらの要素を組み合わせて、インタラクションスコアが算出されます。具体的な計算方法としては、エビデンススコアを基にしつつ、相互作用の特異性を考慮してスコアを調整します。その結果、信頼性が高く、特異的な相互作用ほど高いスコアが付与されます。

結果は以下のようにDOWNLOADからダウンロードしてください。

遺伝子と関連薬剤のネットワーク構築

Cytoscapeを起動し、File→Import→Network form File…を選択し、先ほどインポートしたtsvファイルを選択してください。

drugのマークをTarget-Node(以下のマーク)に変更にします。

interaction scoreもTarget Node Attribute(以下のマーク)に変更します。

OKを押すと以下のような図が書けます。

右上のBACE1に着目すると以下のようになっています。

色が濃くなればなるほど、interaction scoreが高いものを示しており、BACE1遺伝子と何かしら関係がある化合物になるということになります。

左タブのStyle→FIll Color→Column:interaction score、Mapping Type:Continuous Mappingで色を変更すると、もっとわかりやすくなります。

以下のような色合いになります。

赤に近づければ、近づくほど何かしら相互作用のある薬剤を示しています。

これを元に特定の遺伝子(もしくはタンパク質)に対する薬剤を発見することができます。

最後に


いかがでしたでしょうか?本記事では変動遺伝子を見つけたあと、それに対する薬剤の見つけ方の一例を示しました。scRNA seqやRNA seqを使われている方も、ぜひ活用してみて、薬剤を見つけてみてください!


参考文献


DGIdb 5.0: rebuilding the drug–gene interaction database for precision medicine and drug discovery platforms


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